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広島地方裁判所 昭和60年(ワ)445号 判決 1991年3月25日

主文

一  被告らは、各自、別紙損害一覧表原告欄記載の各原告に対し、当該原告欄に対応する同表認容合計欄記載の各金員及びこれに対する被告ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年五月一一日から、被告小城剛については同年同月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告ら各自のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、別紙損害一覧表原告欄記載の各原告に対し、当該原告欄に対応する同表合計欄記載の各金員及びこれに対する被告ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年五月一一日から、被告小城剛については同年同月一二日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 被告ベルギーダイヤモンド株式会社(以下、被告会社という。)は、昭和五八年二月八日に設立された宝石類の卸売及び小売等を目的とする株式会社であり、大阪に本社を置き、広島を始め全国に二〇の営業店舗を有していた。被告小城剛(以下、被告小城という。)は、被告会社の設立後間もないときからその代表取締役をしてきている者である。

(二) 原告らは、いずれも、被告会社から、別紙損害一覧表の購入年月日欄記載の各年月日に、同表購入物欄記載の各購入物を、同表購入金額欄記載の各購入金額を支払って購入し、同表のM・C・C受講料欄記載の受講料を支払い、被告会社の販売組織の構成員(後記ビジネス会員)となった者である。

2  被告会社の販売組織(以下、本件組織という。)の仕組み

(一) 被告会社は、同社との間でダイヤモンドを中心とする宝石類(以下、特に断らない限り、ダイヤモンド以外の宝石類を含め、単にダイヤモンドという。)の販売媒介委託契約を締結した者の媒介を通じてダイヤモンドの販売を行っていた(以下、被告会社が締結する右販売委託契約のことを本件契約という。)。ダイヤモンドを購入して本件契約を締結した者(これらの者は被告会社においてビジネス会員と呼ばれていた。以下においては、これにならい、ビジネス会員又は単に会員という。)の被告会社における地位は、その売上累計等に従い、次の四段階に区別される。

(1) ダイヤモンドメンバー(以下、D・Mという。)

被告会社からダイヤモンドを購入し、その後被告会社の承認面接を受けて同社との間で本件契約を締結した者がD・Mとなる。D・Mは、被告会社が主催するマネージメント・コンサルタント・クラス(以下、M・C・Cという。)と称する講習を受け、販売媒介活動を開始する。

(2) オフィシャルメンバー(以下、O・Mという。)

直接の被紹介者であるD・Mを三名育成し、かつ、自己及び配下のD・Mの売上累計額が二一〇万円以上となったD・MがO・Mとなる。

(3) ベルギーダイヤモンドエージェンシー(以下、B・D・Aという。)

直接の被紹介者であるO・Mを三名育成し、かつ、自己及び配下のO・Mの売上累計額が八〇〇万円以上となったO・MがB・D・Aとなる。

(4) ベルギーダイヤモンドマネージャー(以下、B・D・Mという。)

直接の被紹介者であるB・D・Aを三名育成し、かつ、自己及び配下のB・D・Aのその翌月以降一箇月間の売上実績が一八〇〇万円以上となったB・D・AがB・D・Mとなる。なお、B・D・Mは、法人化すべき義務を負う。

(二) ビジネス会員の利益の上げ方には三通りある。

第一は、自己が直接販売を媒介した場合であり、この場合には、自己が得ている地位及び販売媒介実績(累計売上)に応じ、媒介により得られた販売額の、D・Mで一五パーセントないし三二パーセント、O・Mで二二パーセントないし三二パーセント、B・D・Aで三七パーセント、B・D・Mで四七パーセントの手数料が支払われる。

第二は、自己の配下のビジネス会員が販売媒介をした場合であり、この場合には、販売額に対し自己に適用される前記手数料率と自己の直属の配下のビジネス会員に適用される手数料率との差の率を掛けた額が指導育成料として支払われる。

第三は、B・D・A及びB・D・Mについてのみ認められているオーバーライドと呼ばれている特別の指導育成料を得る場合であり、自己の配下の会員を自己と同地位に昇格させると、自己をAとして、直属のB、直系列のCに当たるB・D・A又はB・D・Mの売上げの四パーセントないし一パーセント(B・D・Aの場合、Bの売上げの四パーセント、Cの売上げの二パーセント、B・D・Mの場合、Bの売上げの三パーセント、Cの売上げの一パーセント)が別途支払われる。

(三) 以上のとおり、本件組織は、ダイヤモンドの購入を条件として販売組織に加入した者が、その配下に同様な加入者を組み入れることにより、ダイヤモンドの販売代金のうちの一定額の還元を受けることができるというものであり、その特色は、連鎖的人的組織を利用した販売方法による組織の拡大方法と販売代金の分配方法にある。

3  本件組織を利用して行われた被告会社のダイヤモンドの販売方法(以下、本件商法という。)の違法性

本件商法はそれ自体で違法である。そのわけは次のとおりである。

(一) 本件組織の仕組み自体に内在する違法

(1) 多数被害者発生の必然性

本件組織の下では、ダイヤモンドを購入して会員となった者は、一方で、ことがうまく運べば、自己の配下の会員がねずみ算式に増えていき、自己及び配下の者の販売媒介行為により大きな利益を得ることができるのに対し、他方、少なくとも三名の新規購入者を勧誘により見出さない限り自己の出費を回収することができない。そこで、会員となった者達は、家族、親類、友人、知人等自己の周囲の人間関係を利用して新規購入者を見出そうと懸命になる。しかし、もともと多くの者にとってこのような勧誘は容易なことではない、という点を別としても、勧誘できる人数は現実には有限であるということから、本件組織のような仕組みは最終的には必ず破綻する。そして、その結果、利益を得るのは被告会社と一部の会員だけで、会員となった者の大多数には、不必要なダイヤモンドを購入させられてその代金等の出費を回収できないという経済的損失と周囲の者との間の人間関係の破壊という損害が発生する。本件商法は、このような結果(これは、既に社会悪と呼ぶにふさわしいものである。)をもたらす本件組織を不可欠の前提とするものである以上、このことのみで違法となるというべきである。

(2) 取締法規違反

① 無限連鎖講の防止に関する法律(昭和五三年法律第一〇一号)違反

本件組織は、無限連鎖講の防止に関する法律が禁止の対象として規定する「無限連鎖講」(いわゆるネズミ講)そのものである。すなわち、一方では、確かに2で述べた事実を前提にすると、本件組織と「無限連鎖講」との間には、外形上、本件組織がダイヤモンドの販売組織であり、同法がいう「金銭配当組織」ではないというところに相違点がある。しかし、他方、ある組織が、商品の販売に名を借りあるいはその外形をとっている場合であっても、そこに含まれている金銭の支出、配当の側面が実質的に無限連鎖講の防止に関する法律二条の要件を具備する限りは同条にいう「金銭配当組織」に該当すると解すべきである。そこで、この観点から本件組織を見ると、ア被告会社は、本件商法を行うについて、その活動の重点をビジネス会員を獲得するための説明会におき、新規加盟者を募集すること、あるいは、組織内の下の地位の者を上の地位に昇進させること(以下、これらをまとめてリクルートという。)による手数料あるいは指導育成料(以下、これらをまとめて単に手数料ということがある。)という名の経済的利益を収受しうる点を強調していたこと、並びに、イ 原告らを含め、ビジネス会員となった者らは、被告会社の巧妙な説明のままに、新規加盟者を勧誘して手数料を得ることにより自己が支出した金員を回収し、さらにそれを上回る利得を得ることを決定的動機として、本件組織に加入したことからすると、本件組織は、その実質において、商品の販売に籍口した「金銭配当組織」というべきである。

仮に、取締法規としての性質から右法の解釈は制限的になされなければならないとしても、無限連鎖講が違法とされる理由は少数の者が一般大衆の射幸心や無思慮を利用して多数被害者の損失により利益を得るという結果が必然的である点にあり、本件組織もこれと全く同じ結果をもたらすものであるから、同じように違法なのである。

② 訪問販売等に関する法律(昭和五一年法律第五七号)違反

本件商法は、訪問販売等に関する法律(昭和五一年法律第五七号。)に定められた「連鎖販売取引」である。確かに、被告会社においては、本件組織に加入する者がダイヤモンドを再販売する形式にはなっておらず、その販売を媒介する形になっているだけであるから、その点において、本件商法は、昭和六三年法律第四三号による改正前の訪問販売等に関する法律(以下、これを旧訪問販売法という。)に定められた「連鎖販売業」に該当するものではない。しかし、右改正により現在では本件組織のような形態もまた同法に定める「連鎖販売業」に含まれることになったことからも明らかなとおり、右の点は訪問販売等に関する法律を適用するについて本質的なことではない。そして、右法律が「連鎖販売取引」を実質的に禁止するものであることは、その立法の経緯に照らして明らかである。したがって、本件商法は違法というべきである。

(二) 勧誘方法に基づく違法

仮に(一)が認められないとしても、本件商法は、それが許される限度を超えた勧誘方法を必然的にもたらすゆえに、違法である。以下、詳述する。

(1) 勧誘とその結果の実態

まず、本件商法において現実に勧誘がどのように行われそれがどのような結果をもたらしたかを、主として原告らの場合を例として確かめてみる。

① 原告らを含め被告会社のダイヤモンドを購入した者達は、いずれも、まず、友人あるいは知人から電話等による連絡を受け、「いい話があるのだけれど……」とか「ちょっとお茶でも飲まない。」とかいう具合に、被告会社に関する用件であることはおろかその用件がダイヤモンドを販売することであることさえ明らかにされないまま誘い出され、被告会社の広島支店に連れていかれる。

② 被告会社広島支店の会員フロアー(会員のために設けられた区域)は、応接セットが一〇個くらい並べられ、天井からはシャンデリアがつり下げられるなど、一流ホテルのロビーに見られるような豪華な内装が施されており、広島支店に連れてこられた顧客はまずこの雰囲気に圧倒される。そして、顧客達は、会員フロアーの奥にある部屋に案内され、被告会社が主催するビューティフル・サークルと称する講習に参加させられる。

③ 被告会社は、ビューティフル・サークルにおいて、ベルギーのアントワープの風景とかダイヤモンドを加工している工場の様子とかを撮った映画を映し、その後、二、三人の講師によって、被告会社の概要とダイヤモンドを買って会員になった場合の特典を説明させ、さらに、ビジネス会員になればダイヤモンドの顧客を被告会社に紹介することによって手数料を得ることができることを伝える。ここにおいて、顧客らは、何も知らされずにこの場所に連れてこられた目的が、ダイヤモンドを買わせることにあったことを認識する。

④ ビューティフル・サークルを終えて前記フロアーに出てくると、勧誘者や勧誘者の上位の会員ら数名が顧客を待ち受けている。そして、右勧誘者等が、顧客を取り囲む様にして、顧客に対し、口々に、「こんなうまい話はない。」、「こういう風にしたら必ずもうかる。」、「こんなチャンスは一生に一度しかない。」、「一緒にやろう」、「あの人は月に何十万円ももうけている。」とかいった甘言を弄し、あるいは「こんな話に乗らないのは馬鹿だ。」と迫るなどして、顧客にダイヤモンドを購入してビジネス会員となるようしきりに勧誘し、お金がないと断ると、「クレジットが使えるから心配ない。第一回の支払日までには新しい会員を加盟させることによる手数料が入るから支払に困ることはない。」などと持ちかけ、まるで何らの対価も支払うことなくダイヤモンドが手に入るかのような幻想を抱かせ、それでもダイヤモンドを購入することなく帰宅した顧客に対しては、自宅に電話をしたり、ときには上位の会員とともに来訪したりするなどして、前記と同様な勧誘を続け、ダイヤモンドを購入させる。

⑤ ダイヤモンドを購入した者は、愛好会会員となり、ビジネス教室の受講を勧められる。右教室では、被告会社が作成したビジネステキストと称する教材(<書証番号略>)が渡され、講師が、主に手数料と勧誘方法について説明する。勧誘方法については、「ダイヤモンドの販売だということを知らせることなく、顧客を広島支店に連れてこい。それが顧客を獲得する秘訣だ。」と教えられる。

⑥ ビジネス教室を受講した者は、被告会社の承認面接を受け、そこで、被告会社に対し、「参加意志再確認書」、「資格検定書」、「誓約書」を提出し、その後に被告会社との間で本件契約を締結してビジネス会員となる。この承認面接及び各書類の提出は、被告会社が、本件商法が過去において違法とされたいわゆるマルチ商法に該当するとの批判をかわす目的で導入した形式的な制度であり、後記被告会社の主張(この制度を設けることにより、顧客が自由意志によりダイヤモンドを購入したか否かを再確認し、被告会社の理念を理解させ、不当勧誘等の禁止を徹底させ、単に金銭配当のみを期待するような者が被告会社のビジネス会員となることを排除する。)とは異なり、その実質は、全く形骸化したものとなっていた。

⑦ このようにして、ビジネス会員となった者は、次にM・C・Cを受講する。M・C・Cでは、講師が、まず、「人生の成功者となるためにはどうしたらいいか」といった人生訓を話し、その後、勧誘方法や手数料についてビジネス教室とほぼ同一の内容の事柄が時間をかけて詳しく教えられる。ここでは、音響効果、照明効果等を利用して、会場の雰囲気が巧みに演出され、B・D・M等の成功談が熱狂的に語られるため、最後にビジネス会員が一人一人会場に設けられた壇上に上がって決意表明をするときには、異常な興奮により涙を流す者もいる。

⑧ このようにして、被告会社の教育、訓練を受けたビジネス会員が、勧誘の対象として選び出した自らの親類、知人、友人等に①で述べたような電話をかけるなどして、ここに新たな勧誘が始まる。

⑨ 右で述べたような経過をたどって繰り返される被告会社の勧誘により、原告らがそうであるように、本来ダイヤモンドを購入するほどの金銭的余裕はないため通常ならとてもダイヤモンドを購入するはずがなく、また商品販売の知識も経験もない主婦等が、あるいは新たな顧客を勧誘することにより手数料による金もうけができるとの幻想を抱き、あるいは無償であこがれのダイヤモンドを手にすることができるものと錯覚し、被告会社の会員となった。しかし、現実には、原告らの場合がそうであったように、新たな会員を獲得することは困難であり、結果として残ったものは、原告らを含む多くの会員にとって決して少ない金額ではない数十万円の支出がもたらした物心両面での家庭生活への圧迫と、これに相当する価値があるとは到底いえないダイヤモンド、そして人間関係の崩壊のみである。

(2) (1)で述べた事態と本件商法の必然的つながり

(1)で述べた事態は、本件商法の必然的結果として生じたものである。すなわち次のとおりである。

① 本件商法は、いわゆるマルチ商法(マルチ・レベル・マーケッティング・プランとアメリカで呼ばれているものの略称である。)である。これまで右商法の特徴としてはおおむね以下の点が挙げられてきた。

Ⅰ 加盟者となるため、あるいはより高い地位に昇格するためには、相当多額の加盟金等を支払うこと又は多量の商品を購入することが条件とされること。

Ⅱ Ⅰによって加盟者が支払った加盟金等の一部若しくは全部、又は加盟者の商品購入による卸売利益が本部会社以外の加盟者に配分される仕組みになっていること。

Ⅲ 加盟者がⅠに掲げる投資を決定する判断材料として、自己が勧誘する他の者らが支払う投資金の一部をⅡの仕組みによって自己も収受しうることを考慮していること。

② そして、右のようなマルチ商法がもたらす問題点としては以下のことが挙げられてきた。

Ⅰ 不実、誇大な宣伝等による加盟への勧誘

勧誘のための説明会では、新たな加盟者を次々に増やすことが容易であり、大きな利益を極めて簡単に得ることができるように例示するのが常である。しかし、現実には例示された利益を獲得することはほとんど不可能であり、仮に例示された事実があったとしても、それは極めて例外的なものである。また、組織の規模や会員数の実態、販売する商品の性能又は品質、取引条件、契約の解除に関する事項等投資を決定するに際して必要な情報も、虚偽であったり不正確であったりすることが多い。

Ⅱ 商品の品質、性能及び価格をめぐる問題

マルチ商法では、販売商品が品質、性能上問題があるものであっても、画期的な新製品であるかのように装われ、そのためいざ実際の販売を行う段階に至って販売が困難となり、加盟者が自己負担で値引き等して販売せざるを得ない例も少なくない。

Ⅲ 契約内容の不明確性

契約条項中に商品を引き取る旨の記載あるいは解約できる旨の記載があっても、それらの要件が不明確である場合が多い。このように、商品の販売条件や加盟者の権利義務の内容について不明確な点が多く、加盟者に不利なものとなりがちである。

Ⅳ 契約の解除に関する問題

加盟者は、契約締結後商品の引渡しを受け、販売活動を行うに至った段階になってはじめて商品が思っていたように売れないことに気が付くことが多い。しかし、この段階で契約の解除をして、投資した金銭の返還請求をしようとしても、解約は困難であり、結局投資金も回収できないで終わることが多い。

③ 確かに、被告会社の商法は、それが商品の再販売を組織原理としていない点において従来のマルチ商法とは異なっている。しかし、商品販売の利益のほかにリクルートの利益があり、しかも自ら直接に子会員のリクルートに成功した場合だけでなく、自らがリクルートした子会員が孫会員をリクルートした場合にも、労せずして特定利益を収受し得るということを組織原理とし、これを組織を拡大するための最大の「売り物」とする点においては、これまでのマルチ商法と異なるところはない。そして、マルチ商法は、このことゆえに、すなわち現実には加速度的にその度合いを増すリクルートの困難性を隠蔽して組織の拡大を図るために、加盟契約を締結するに当たり顧客から冷静な判断能力を奪う必要に迫られ、必然的にその勧誘には種々不公正な方法が採られることになる。

④ 右のとおり、本件商法は、その本質において、かつてのマルチ商法と同一の組織原理を有しているものである。そして、現実に本件商法によってかつてマルチ商法の問題点として指摘されたのと同じ事態が生じたことは、前記(1)のとおりである。とすると、(1)の事態が本件組織の仕組みを利用して行われた本件商法が必然的にもたらした結果であることは明らかである。

(三) 商品の価値の低さに基づく違法

本件商法で販売の対象とされているダイヤモンドは、その販売価格が通常の小売価格に比べ大幅に高額に設定されている。ところが、本件商法においては、これが販売価格どおりの価値があるものとして販売されており、本件商法は、この点において詐欺的であり、それによっても違法である。

4  責任

被告会社及び被告小城は、過去のいわゆるネズミ講やマルチ商法の例に照らし、本件商法のような人的連鎖組織による金員利得の仕組みが多数の被害者と社会悪を誘発することを熟知していた。にもかかわらず、不法な利益の取得を目的として本件組織及びこれを利用した本件商法を考案し、組織的に前記勧誘行為を実施した。

したがって、被告会社は民法七〇九条に基づき、被告小城は同条及び商法二六六条の三に基づき、原告らが被った後記損害を賠償すべき責任がある。

5  損害

原告らが本件商法により被った損害は、別紙損害一覧表記載のとおりである。以下、その内訳を述べる。

(一) 宝石代金

宝石の購入は、本件組織に加盟するための入会資格であり、原告らは多額の収入が得られるとの甘言に乗せられて不必要な宝石を購入したものである。したがって、原告らは、各自、別紙損害一覧表の購入金額欄記載の購入代金と同額の損害を被ったものというべきである。

(二) M・C・C受講料

M・C・Cとは、新規の加盟者を増やすことが自己が莫大な利益を獲得するための手段であるとの本件商法の基本思想をビジネス会員に吹き込むための教育手段であり、ビジネス会員はこれを受講することを義務づけられている。原告らは、各自、この被告会社の方針に従い、別紙損害一覧表のM・C・C受講料欄記載のとおりの年月日に一万五〇〇〇円の受講料を支払い同額の損害を被った。

(三) 原告らは(ただし、別紙損害一覧表原告番号1の原告石川幸恵、同2の原告石原契子及び同16の原告森脇秀子を除く。)、各自、被告会社と本件契約を締結するに際し、同社との間で「販売委託契約書」を作成し、同契約書の収入印紙代として四〇〇〇円を支払った。

(四) 慰謝料

原告らは、被告会社の会員となったことにより、家族、親戚、知人等との信頼関係を損なわれ、また、自らが勧誘活動を行ったことによりその対象となった知人、友人等から軽蔑されるなどの著しい精神的苦痛を被った。これに対する慰謝料は、原告ら各自について五万円が相当である。

(五) 弁護士費用

原告らは、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人らに依頼した。本件訴訟の難易度、認容額からして、被告らの不法行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、原告ら各自について一〇万円が相当である。

6  よって、原告らは、各自、被告会社に対し民法七〇九条に基づき、被告小城に対し同条及び商法二六六条の三に基づき、請求の趣旨記載の損害額の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1(一)  請求の原因1(一)(被告らの関係等)の事実は認める。

(二)  同1(二)(原告らと被告会社とのつながり)のうち、原告らが、被告会社のビジネス会員となった事実は認める。その余の事実は知らない。

2  請求の原因2(本件組織の仕組み)の事実は認める。

3(一)  請求の原因3(一)(本件組織の仕組み自体に内在する違法)は争う。

(二)  同3(二)(1)(本件商法における勧誘とその結果の実態)の事実は知らない。同3(二)(2)((1)で示された実態と本件商法とのつながり)①、②については、過去においてマルチ商法につき原告らが主張するような批判があったことは認める(ただし、現実にそのようなマルチ商法があったか否かについては知らない。)。同3(二)(2)③、④は争う。

(三)  同3(三)(商品の価値の低さに基づく違法)は争う。

4  請求の原因4(責任)は争う。

5  請求の原告5(損害)は争う。

三  被告らの主張

1  無限連鎖講の防止に関する法律との関係について

本件組織は、ダイヤモンドの販売組織であって、無限連鎖講の防止に関する法律にいう金銭配当組織ではない。

このことは、① 被告会社が販売したダイヤモンドの品質が優良であり、その販売価格に見合う価値を有していたこと、② 被告会社が取得する利益はすべてダイヤモンドの売上げであったこと、③ 被告会社は、全国に二〇を越える店舗を開設し、店頭販売を一貫してきており、原告ら会員はすべて店頭でダイヤモンドを検分し選定して購入したこと、④ したがって、購入の際の商品への着目が極めて強いこと、⑤ ダイヤモンドの購入者には、被告会社の愛好会会員として、次回購入時の割引、会員フロアーの利用、各種催しへの招待等の様々な特典が与えられていたこと、等を併せ考えれば、被告会社の会員にとってダイヤモンドの購入は単なる本件組織への加入証明ではなかったと認められることによって明らかである。なお、このことは、現に被告会社からダイヤモンドを購入しながらビジネス会員とならなかった購入者が、被告会社の全会員の一六パーセントにも及んでいたことからも十分に証明できる。

2  訪問販売等に関する法律との関係について

(一) 訪問販売等に関する法律は、昭和六三年法律第四三号による改正の前後を通じて、連鎖販売取引を行う者に対しての行為規範を示しその規範に反する行為を禁じているにすぎず、マルチ商法を行うこと自体は禁止していない。したがって、本件商法は、右改正の前後を通じて右法律によっては禁止されていない。

(二) さらに、右改正前の訪問販売等に関する法律においては、物品の「再販売」を行うことが「連鎖販売業」の要件とされた。このことは、右法律の制定が、従来マルチ商法の最も重大な弊害とされたマルチ商法を行う組織が破綻した場合に生ずる会員の手元への「在庫の滞留」を防止するためのものであったことから明らかである。ところが、本件商法においては、在庫はすべて被告会社が管理しているのであるから、仮に本件商法が何らかの理由により破綻したとしても会員の手元には商品価値のあるダイヤモンドが残るだけである。したがって、本件商法は、旧訪問販売法(改正前の訪問販売等に関する法律)の規制対象となっていたものではないし、その趣旨を潜脱したものでもなかった。

3  本件組織が過去に違法とされたいわゆるマルチ商法の問題点を克服したものであることについて

被告会社の本件組織は、過去に違法とされたいわゆるマルチ商法を改善し、その問題点として指摘されてきたことのすべてを克服したものである。したがって、被告会社の本件商法には何ら違法とされる点はない。以下、これにつき詳述する。

(一) 本件組織の仕組み自体がかつてのマルチ商法の問題点を克服したものであることについて

これまで、マルチ商法がもたらした問題点として指摘されてきたところは、原告らが請求の原因3(二)(2)の①及び②で述べた事項である。これを要約すると、ア マルチ商法は、必然的に、加盟者の手元に投資額をはるかに上回る不要な在庫を滞留させること、イマルチ商法が取り扱う商品が加盟者の投資額に見合う価値を有しないことの二点であり、これらがマルチ商法による「損害」であるとされてきた。

本件組織は、以下に述べるとおり右の各問題点を克服したものである。

(1) 本件組織の仕組みは、原告らが請求の原因2で述べたとおりである。すなわち、加盟者は、被告会社の会員となるについて、自らが購入するダイヤモンドの代金のほかには何らの金銭負担も負わない。また、本件組織においては、会員はダイヤモンドの販売を媒介する者として位置付けられているため、会員が再販売のためにダイヤモンドを在庫として抱える必要は全くない。したがって、かつてのマルチ商法においては、会員が新規に加盟者を勧誘しないと「投資額+在庫相当額の損害を被る」結果になるのに対し、本件商法においては、会員が勧誘活動をしなくても「投資額(ダイヤモンドの購入代金)を支払ってダイヤモンドを取得したが、リクルートによる手数料がもうからなかった」という結果が残るにすぎない。

一方、被告会社が取り扱ったダイヤモンドは、いわゆる4C(カラー、クラリティ、カラット、カット)の基準によって見た場合、極めて品質の高いものであり、このことは被告会社がダイヤモンドを販売するに当たって原告らに交付した鑑定書の記載からも明らかである。少なくとも、ダイヤモンドのような嗜好品についての価格の形成要因が多様であり、流通マージン(流通過程で中間者の得る利益)や付加価値というものに客観的基準がない以上、被告会社が販売したダイヤモンドの値段が他の販売経路で売られたダイヤモンドよりも高いとすることはもともと不可能であり、現に本件訴訟においても、このことは立証されていない。

(2) (1)で述べたことからすると、本件組織の仕組みは、被告会社の会員が、新たな勧誘活動を全く行わなかった場合あるいはこれに失敗した場合においても、投資額(ダイヤモンドの購入代金)に相当するダイヤモンドが手元に残る結果を保障していることになる。したがって、本件商法においては、かつてのマルチ商法が必然的にもたらすとされた「損害」は全く生じないのである。

(二) 勧誘方法について

被告らは、被告会社において、原告らが請求の原因3(二)の(1)で主張するような勧誘が行われたかどうかは知らない。また、このとおりの勧誘があったとしてもこれが違法との評価を受けるとは思えない。しかし、仮に右の勧誘行為が違法とされることがあったとしても、これらの行為は、特定の不心得の会員が、被告会社の意に反して、その理念、仕組みを理解することなく独断専行して行った行為であり、これら個々の会員が不法行為責任を問われることはあっても、被告会社それ自体が不法行為責任をうんぬんされるいわれはない。以下、この点につき詳述する。

(1) (一)で述べたとおり、本件組織においては、かつてのマルチ商法と異なり、会員が積極的に勧誘行為を行わない場合においても会員に「損害」が生じない仕組みになっている。したがって、かつてのマルチ商法についていわれた「加盟者は、投資金を回収するために新たな加盟者を得るべく勧誘活動に狂奔するはめに追い込まれ、このことが不実、誇大な宣伝等不公正な手段による勧誘を誘発する。」との非難の根拠は本件商法にはそもそも該当しない。本件組織にとっては、違法な勧誘活動はその存続のために必要とはされていないのである。

(2) さらに、被告会社では、会員が「違法」な勧誘を行うことのないよう以下の施策を考案し、現に実施した。

① まず、本件組織の仕組みとして、会員は、昇格のために、勧誘についてのノルマ(一定期間内に得るべき結果の最低基準)を課せられていない。したがって、会員は、かつてのマルチ商法のように、組織内の地位の上昇を図るために一定期間内に新会員を勧誘する必要はなく、各自が自らの力量に応じて勧誘活動をすればよいことになる。

② また、被告会社は、販売する商品がダイヤモンドという嗜好品、贅沢品であることから、主な販売対象者をある程度以上の年齢とそれなりの生活水準にある人々に限定する必要があり、そのためには、顧客が被告会社が用意するフロアーに集い、歓談し、被告会社が主催する盛大で豪華な各種催しに参加するなどして被告会社に対しよいイメージを抱くよう努めることが重要であった。右二つの理由から、被告会社にとっては、金銭欲をあらわにする者や購買力がないのにダイヤモンドをやっとの思いで購入する会員は迷惑な存在であった。

そこで、被告会社は、会員の質を低下させないために、態度の不真面目な者や二五歳以下の者の販売組織への加入を拒否し、ビジネス会員になることを希望する者に対しては、被告会社が育成したトレーナーによる「承認面接」を行い、右「承認面接」においては、会員が不当勧誘を行わないように指導することに主眼を置き、「ダイヤモンドは利殖になる。絶対にもうかる。」等の射幸心をあおるような言動をしないこと、無理にダイヤモンドの購入を勧めたり、誤解を招くような説明をしたりしないこと等を記載した誓約書を新会員に朗読させることとし、疑問点があればこれに答えるようにしていた。

③ 次に、被告会社では、違法勧誘から顧客を保護するために、いわゆるクーリング・オフの制度を顧客に有利な方向にすすめた「冷却期間」という制度を設けた。この制度は、顧客からの購入の申込みがあった日から四日間を予約期間と考え、この期間中は申込みのあったダイヤモンドを陳列の場から外して保管し、この間に顧客が代金支払の手続をしない場合は、被告会社の方から購入の申込みがなかったことにしてしまうものである。クーリング・オフの制度とも異なり売買契約の解除につき顧客の側から何らの行為も必要としないのである。この制度の下では、顧客は、冷静に考える期間を保障されており、いやだと思えば、そのまま放置すればよいのである。

(3) 以上のとおり、被告会社は、かつてのマルチ商法がもたらした違法な勧誘を防止するために種々の施策を講じた。したがって、個々の会員の中にたまたま「違法」な勧誘を行った不心得者がいたとしても、そのゆえをもって、被告会社自体に対し、不法行為責任を問うことができないことは明らかである。

かつてのマルチ商法が批判されたのは、それが前記のとおり類型化された種々の問題点を有していたからである。マスコミがこぞってこれを批判的に報道したからでもなく、マルチ商法であるといえば悪徳商法の代名詞であるといわれるからでもない。被告らは、右で類型化したような問題点をすべて兼ね備えた極悪非道のマルチ商法がかつて存在したか否かは知らない。しかし、叙上の問題点を具体的に検討してよくこれを克服し、極力適正に運営されるマルチ商法が存在し得るならば、このような商法をマルチ商法であるがゆえに違法とすることができないことは明らかである。そして、被告会社の商法こそが、右の意味で問題点を克服した商法なのである。

4  損害について

仮に、本件商法が違法であると判断されたとしても、原告らが主張する損害論は次に述べる点で誤っている。

(一) 原告らは、ダイヤモンドの購入金額の全額が損害である旨主張する。

しかしながら、原告らの手元には購入金額に見合うダイヤモンドが残っている。したがって、原告らにはこの点の損害はない。

仮に、原告らの保有するダイヤモンドが、他の流通経路で購入したものよりも割高であったとしても、およそ不法行為における損害が加害行為によって生じた被害者が保持していた財産の価格の減少である以上、原告らの損害は、その購入したダイヤモンドの「適正価格」と購入代金額との差額となるはずである。そして、ダイヤモンドの「適正価格」なるものがそもそも存在しないこと少なくとも本件訴訟において原告らがこれを立証したといえないことは、先に述べたとおりである。

結局、原告らが主張する損害が認容されるのは、被告会社が販売したダイヤモンドが全く価値のない「くずダイヤ」であった場合のみである。繰り返しになるが、被告会社の販売したダイヤモンドは「くずダイヤ」ではないのである。

(二) M・C・Cの受講料は、被告会社の仕組み、理念及び商品知識等を学ぶための実費であって損害ではない。

(三) 契約書の印紙代は、印紙税法に定められた税金であって、これが損害となるはずはない。

(四) 慰謝料については、原告らの精神的損害は個人差の大きいものであって、すべての原告らに共通するものとはいえず、かつ、それらは被告らの行為によって通常もたらされるべき直接的な被害とはいい難いし、被告らにはその予見可能性もないものというべきであるから、損害とはいえない。

四  被告らの主張に対する認否及び原告らの反論

1  被告らの主張1は争う。

2  被告らの主張2は争う。

3  被告らの主張3は争う。

(一) まず、本件商法は会員に「損害」をもたらすものではないという主張については、以下のとおり反論する。

被告会社の本件商法が、旧訪問販売法で規制の対象となったいわゆる再販売型マルチでないこと自体は原告らにおいても争ってはいない。したがって、形式論理的には、本件組織が再販売型マルチがもたらす問題点のある部分を「克服」したと認める余地がないではない。

しかし、まず、被告会社が販売したダイヤモンドはその代金に見合うものであったとする点については、次の反論が可能である。

本件組織の仕組みとして前述したとおり、本件商法においては、売主である被告会社はダイヤモンドの販売代金の半分程度しか取得せず、残りは会員相互で分配される手数料に充てられている。他方、被告会社は、各地で一等地に広大な店舗を構え、豪華な調度品をそろえるなどして多大の出費をしているうえに、ビューティフル・サークルほかの講習のための運営費や高額な役員らの報酬や人件費なども必要としている。これらの点に照らすと、被告会社の販売価格が通常の小売り価格と比較して大幅に高額に設定されていることは明らかである。

現に、本件と同一の争点で争われている裁判において証拠として提出された鑑定書には、被告会社の販売価格は通常の価格の一〇倍であるとの鑑定結果が記載されている。

さらに、より本質的なことは、本件商法を含むマルチ商法の「損害」は被告らが要約して主張する二点にとどまるものではないということである。仮に、購入者が支払った代金に見合う商品が手元に残ったとしても、それが購入者にとって不必要なものなら、やはり購入者にとってその商品を購入したことは「損害」である。そして、マルチ商法の本質は、リクルート料の分配という「うまみ」をえさに人を勧誘し、そのために人に不必要な商品を購入させることにある。

(二) 次に、被告会社は、違法な勧誘を禁止するために種々の手段をとったから、仮に会員により違法な勧誘が行われたとしても、これに対しては自らが責任を負う必要はない、との主張に対しては、以下のとおり反論する。

このような主張は、誰が、リクルート料の分配を本旨とする本件組織を考案し、一般の消費者をこれに巻き込んでこれを運営したかという観点を抜きにしては何らの意味も持たない。このような組織形態をとって販売活動をする以上は、これを主宰する者が、「特異な成功例を挙げたり、法外な利益が得られると錯覚させるような説明をしたりしないこと」といった指導を会員に対して真剣に行うことはあり得ない。また、仮にこれを行ったとしても、少しでも多くの会員をリクルートして手数料を手に入れようとしている会員を、これによって制御できるものではない。

4  被告らの主張4は争う。

ここで、原告らが請求の原因においてダイヤモンドの購入代金全額を損害として主張する理由を、補足して述べる。

(一) 交換価値

被告会社が販売したダイヤモンドは0.5カラット以下であり、この程度のダイヤモンドには交換価値はない。

(二) 主観的価値

交換価値のないダイヤモンドであっても、人はこれを購入する場合がある。これは、人が、ダイヤモンドに対し、「自ら身に付けて楽しむ価値」、あるいは、「愛する人に贈って喜んでもらう価値」を認めているからである。このような動機がない場合においては、ダイヤモンドはただの石ころ同然の物となる。そして、原告らは、ダイヤモンドをこのような動機では購入していない。ただ、被告会社に入会する資格を取得するために買い求めているのである。

(三) この意味で、原告らにとっては、被告会社から購入したダイヤモンドは全く無価値な物である。したがって、原告らがダイヤモンドを保有していることは、その損害を認定するうえで無視すべきこととなる。

第三  証拠<省略>

理由

第一  法的判断の前提となる事実

一  当事者

1  請求の原因1(一)の事実(被告らの関係等)は当事者間に争いがない。

2  同1(二)(原告らと被告会社とのつながり)のうち、原告らがいずれもビジネス会員になったことは当事者間に争いがない。また、<書証番号略>、原告石川幸恵及び同中沢和恵各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは、別紙損害一覧表の購入年月日欄記載の各年月日に、購入物欄記載の各購入物を現金であるいはいわゆるクレジット・ローンによって支払って購入金額欄記載の各購入金額(ただし、原告番号6の原告川上澄江については同欄記載の四二万円ではなく四〇万円である。)購入し、印紙代欄記載の印紙代を支払い(ただし、原告番号1の原告石川幸恵、同2の原告石原契子及び同16の原告森脇秀子を除く。右三名の原告は印紙代を損害として主張していない。)、M・C・C受講料欄記載の受講料を支払った(ただし、原告番号10の原告高田清子は除く。同原告はM・C・Cを受講せず、その受講料の支払もしていない。)との事実が認められる。右認定の妨げとなる証拠はない。

二  本件組織の仕組み

1  請求の原因2(本件組織の仕組み)の事実については当事者間に争いがない。

2  右事実を前提に、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告らが被告会社からダイヤモンド(本判決の理由においても、宝石類の一種であるダイヤモンドを中心に他の宝石類も含めた宝石類の意味でダイヤモンドという言葉を用いる。ただし、ダイヤモンドに関する以下の論述中には、一部、厳密にいえば宝石類の一種としてのダイヤモンドにしか当てはまらない部分もある。しかし、被告会社の扱った商品の大部分は右の意味でのダイヤモンドであり、また、そこでこの意味でのダイヤモンドについて述べられることは、ほとんどそのまま他の宝石類にも当てはまることである。)を購入した当時までの本件組織の仕組みにつき次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 被告会社は、いわゆる豊田商事グループに属する会社の一つとして、昭和五八年二月八日設立された会社であり、その株式は、当初は豊田商事株式会社により、昭和五九年四月からは銀河計画株式会社により、全額保有されていた。同会社の事業は、ダイヤモンドを商品として組織販売するとの豊田商事グループ永野会長の発案と藤原照久及び平井康男(いずれも、昭和五〇年ころからいわゆるマルチ商法として社会問題化し、旧訪問販売法制定の一つの要因となったホリディ・マジック社の商法に関与した経験を持つ者である。)らによって考案された組織の仕組みに基づき、昭和五八年三月から四月にかけてのころ、同時期に福岡通産局商工部アルコール第二課を課長補佐で退職した被告小城を代表者に据える形で始められた。

(二) 本件組織の概要は、請求の原因2として摘示されたとおりであり、連鎖的人的組織による販売方法を採用している点、及び、商品の購入を条件として販売組織に加入した者が、その配下に同様な加入者を組み入れることにより組織内部での地位を上昇させ、その地位に応じて商品の販売代金のうちの一定の割合の額(地位が上昇することにより配分率も上昇する。)を手にすることができる点において、旧訪問販売法が「連鎖販売業」として規制の対象としたいわゆるマルチ商法を行った組織と同一の特徴を有する。

(三) しかし、本件組織を利用して行われた被告会社の商法(本件商法)は、次の諸点において、旧訪問販売法制定当時までに行われていたマルチ商法とは異なっている。

(1) 本件組織においては、会員は、被告会社が保有するダイヤモンドの販売を媒介する役割を与えられているだけであり、被告会社からダイヤモンドを仕入れてこれを再販売する役割を担わされることはない。

(2) 会員は、販売媒介活動をするかしないかを選択する自由すなわちビジネス会員となるか否かを選択する自由を有している。そして、被告会社は、ビジネス会員とならないダイヤモンドの購入者に対しても、次回にダイヤモンドを購入する場合における一五ないし三二パーセントの割引、実費負担による指輪等の修理や加工等のいわゆるリフォームサービスの提供、全国の被告会社の店舗における会員フロアー(会員用に設けられた区域)の利用やコーヒーの無料サービスの提供、被告会社が主催するいわゆるパーティ等への無料招待又は優待等の特典を与える。

(3) 会員は、加入時にダイヤモンドの購入代金を支払うこと及びD・Mになる際にM・C・Cの受講料一万五〇〇〇円を支払うことを除いては、本件組織への加入及び内部での昇格に当たって加盟金や保証金等を支払う義務を負わない。

(4) 会員は、B・D・Mに昇格する場合を除き、昇格のための所定売上額を一定期間内に達成することは要求されていない。もう一つの昇格要件である会員の育成については、あらゆる地位につき期間の制限はない。

(5) さらに、D・Mについては、自己の紹介者がダイヤモンドを購入しさえすれば、その購入者がビジネス会員とならない場合でも手数料を取得することができる。

三  被告会社における勧誘方法

前掲<書証番号略>、証人石川真由美、同井口義信の各証言、原告石川幸恵、同中沢和恵各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社が実施した勧誘方法とこれにより原告らを含む会員が本件組織の会員となった経緯について、以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告らを含むビジネス会員の大部分が、友人あるいは知人から、電話等で、「いい話があるから」とか「久しぶりに会ってお茶でもどうか」とかと誘われ、これに応じて勧誘者と会い、被告会社の営業店舗に連れていかれることから被告会社との接触を始めている。ここで特徴的なことは、勧誘される者(顧客)は、被告会社の営業店舗に行くまでは、勧誘の目的がダイヤモンドを購入させることであることを全く知らされていないことである。これは、被告会社が多くの会員を獲得する勧誘手段として明確な目的意識の下に採用した方針に基づく結果である。この方針は、勧誘される者に「ダイヤモンドを買わされる」との警戒心を与えることなく多くの者を被告会社の営業店舗に来させるとの意味で本件商法の進展に大きな効果をもたらした。このことは、ダイヤモンドを販売する小売商が顧客と接触する通常の形態とは大きく異なっている。通常の場合、人は、ダイヤモンドを現在あるいは少なくとも近い将来において購入する目的をもって宝石店を訪れるものだからである。

2  被告会社の営業店舗には、ホテルのロビーに見られるような内装が施されている。ここに連れていかれた顧客は、原則として、被告会社が主催するビューティフル・サークルと称する講習会に参加する。ビューティフル・サークルにおいては、まず、ベルギーのアントワープの風景とかダイヤモンドを加工している工場の様子とかを撮影した映画が上映され、その後、数人の講師から、被告会社が設立された経緯、わが国においてはダイヤモンド市場が未開拓であり発展性を有すること、ダイヤモンドを購入した場合に顧客に特典が与えられること、この特典の中にビジネス会員となる資格が含まれていること、ビジネス会員は紹介料を得ることができる点で有利なものであるが、誰もがなれるものではなく、被告会社の承認が必要であること等が説明される。なお、この場において、会場が盛大な拍手や熱狂的雰囲気に支配されたとの事実はなかった。しかし、ビューティフル・サークルにおいても、B・D・Mの体験談が話された例があり、被告会社もこのことに承諾を与えていた。ここにおいて、顧客は、ダイヤモンドを購入させる目的で被告会社に連れてこられたことを認識し、それと同時に、ビジネス会員になれば、利得を得ることが可能であることを教えられ、場合によっては、現実に高額な収入を得ている例もあることも教えられる。

3  顧客がビューティフル・サークルを終えると、後記の内容を有するビジネス教室及びM・C・Cを受講して、新規会員の募集に意欲をもやし、あるいは現に会員の募集に成功して多額の利益を得ている被告会社のビジネス会員達が待っている。ビジネス会員達は、顧客に対し、被告会社のダイヤモンドを購入してビジネス会員となれば、「金もうけ」ができること、あるいはもうけるところまではいかなくても、本物のダイヤモンドが手数料を得ることにより結果的には「安く」あるいは「ただ」で手に入ることを、自らのまたは他人の成功例を持ち出して説明し、顧客を勧誘する。これらのビジネス会員達のうちの相当部分の者は、その場で勧誘に失敗すれば、顧客宅に電話し、場合によってはそこを訪れて勧誘を続ける。これにより、自らが手数料を取得できあるいは自らの地位を上げることになるからである。そしてこのような勧誘の結果、顧客のうちの相当部分の者(被告会社の営業日計表によれば、ビューティフル・サークルに参加し、現実にダイヤモンドを購入した顧客の割合は、昭和五九年一一月では30.7パーセント、同六〇年四月では29.3パーセンントである。)が被告会社からダイヤモンドを購入するに至る。これらの購入者のうちのある者は、純粋にダイヤモンドを購入する目的で、ある者は、純粋に「金もうけ」の目的で、しかし大多数は、手数料を得ることにより、結果としてダイヤモンドが「安く」場合によっては「ただ」で手に入ること、さらにうまくすれば、ダイヤモンドの購入代金以上の収入が得られることを期待して購入するのである。

4  ダイヤモンドを購入した者の大多数(藤原照久の証言によっても九〇パーセント近くの割合の購入者)がビジネス教室と称する講習を受ける。ここでは、被告会社が作成した教材が渡され、講師により手数料の仕組みと具体的な勧誘方法が教えられる。そして、人生の成功者となるためには経済的豊さを持たねばならないこと、被告会社の商法はこれを可能にすること、そのためには、被告会社が伝授する勧誘方法に習熟しこれを精一杯実践することが必要であることが強調される。

5  ビジネス教室を受講した者は、被告会社のトレーナーと呼ばれている講師による承認面接を受け、そこで、被告会社に対し、「参加意志再確認書」、「資格検定書」及び「誓約書」を提出して、その後に被告会社との間で本件契約を締結してビジネス会員となる。「参加意志再確認書」には、購入目的を記載する欄が設けられており、「誓約書」には、ダイヤモンドが利殖になるとか被告会社のビジネスは絶対にもうかるとかの射幸心をあおるような行為、言葉使いをしないこと及び客に無理に勧めたり誤解を招くような説明をしたりしないことを遵守する旨の記載がある。また、承認面接において、トレーナーが「絶対もうかるといった説明をしてはならない。」と説明した例があることが伺える(これらの制度が実際にどのような効果を生んだかは後に述べる。)。なお、被告会社が承認面接の結果としてビジネス会員になることを拒否した顧客は、発足後二年間で一〇〇人程度である。

6  このようにして、ビジネス会員となった者には、次に、M・C・Cの受講が義務付けられる。M・C・Cでは、講師によって、ビジネス教室とほぼ同じ内容の事柄が時間をかけて詳しく、しかも、音響、照明効果等を利用することにより異様に熱狂した雰囲気の中で語られる。このため、受講者の中には異常な興奮のあまり涙を流す者も出るほどであった。M・C・Cは、昭和五九年末ころまでは二日の日程で、それ以降は一日の日程で行われた。

四  被告会社が販売したダイヤモンドの価値

1  まず、ダイヤモンドの交換価値(すなわち、資産としての価値)について見る。

<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、ダイヤモンドは、一般に交換価値の低いものであり、殊に被告会社が販売したような0.5カラット以下のダイヤモンドの場合には、その交換価値は著しく低いこと、したがって、たとい被告会社以外から購入したダイヤモンドであっても、その交換価値は購入価格の一〇分の一程度であることが認められる。

2  次に、被告会社のダイヤモンドの販売価格の設定が一般の宝石小売店におけるそれとの対比で高額であったか否かについて見る。

前掲<書証番号略>、原告石川幸恵本人尋問の結果には、被告会社の販売価格が一般の宝石小売価格の二倍程度である旨の、また、三倍ないし一〇倍程度である旨の各供述部分がある。しかし、前掲<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社は、その販売するダイヤモンドの裸石を、すべて被告会社の子会社であるベルギー貿易株式会社を通じてイスラエル、ベルギー等の各取引業者から仕入れ、鑑定を外部の鑑定機関に依頼していたこと、右鑑定機関においては、わが国で通常行われている鑑定評価の方法でダイヤモンドを鑑定していたこと、被告会社は右鑑定により一定の品質を有すると評価されたダイヤモンドのみを商品として販売する方針をとっていたこと、被告会社の販売価格は、被告会社の鑑定士がこのようにして仕入れた価格の五倍を基準にこれに他の取引事例等を考慮して設定していたこと、一般の宝石小売店においても小売価格が卸価格の約五倍と設定されている例は少なくないことが認められ、右事実に照らすと、原告らが主張するとおり、被告会社においては、自らが取得するものはダイヤモンドの販売代金の半分程度しかなく(他は、ビジネス会員の間で分配される。)、これによってその事業資金のすべてをまかなう必要があったことを考慮に入れても、なお、先の供述部分を採用することはできない。他にも、被告会社が販売したダイヤモンドが、その販売価格に比して、右の意味で価値の乏しいものであったと認めるに足りる証拠はない。

第二  法的判断

一  本件組織の破綻の必然性

1  組織の破綻という言葉を、組織がその本来のものとして予定している姿を維持できない状態に陥ることの意味で用いる限り、本件組織が、その仕組み自体により、時期の早い遅いは別としていずれ破綻すべき運命にあったことは明らかである。すなわち、本件組織においては、加入者は、自らの又はその配下の者の紹介による新規購入者・新規加入者があって初めて、所定の手数料等の利益を得ることができるのであるから、後の加入者が同じように利益を得るためには、更に後の新規購入者・新規加入者を見出すことが必要であり、そのことからして、本件組織は、このような人的連鎖が無限に続くことが前提とされている組織といわざるを得ないのであり、現実にはこのような人的連鎖が無限に続くことはあり得ないから、本件組織はいずれ破綻すべき運命にあったということができるのである。

そして、そのような破綻がどの段階で生じるかは、本件組織の拡大能力の大小によって定まることである。すなわち、本件組織の拡大能力が小さい場合は、破綻は早い段階で生じるがこれによって影響を受ける者の数はそれだけ少ないものとなり、逆に、それが大きい場合は、破綻は遅い段階に至って生じるがこれによって影響を受ける者の数はそれに応じ飛躍的に多くなっていくことになるのである。

2  右の意味での破綻の必然性という点のみに焦点を合わせて考察するときは、本件組織は、組織に加入する際に期待していた利益を得ないままに終わる加入者がその程度はともかく多数発生すべく運命づけられている組織であるという限りにおいては、旧訪問販売法制定当時までに行われており同法制定の契機となった諸組織と何ら異なるところはないといってよい。

二  加入者に生じ得る損害

1  本件組織が前記の意味で破綻すべく運命づけられていたとしても、換言すれば、本件組織において期待していた利益を得ないままに終わる加入者が多数発生すべく運命づけられていたとしても、そのような加入者に生じる結果が法的に取り上げるだけの価値を持たない性質のものであるならば、本件商法をそれ自体として違法とすることは困難となるであろう(なお、ここでいう違法とは、当然のことながら不法行為の要素としての違法であり、それ以上でも以下でもない。被告らに不法行為責任があるか否かは、民法の問題であり、本来、厳密には、本件商法が取締法規に違反するか否かとは無関係である。取締法規に違反すること自体から右の意味での違法性が論理必然的に導き出されるわけではないのと同様、取締法規に違反しないからといって、そのことから右の意味での違法性がないとの結論が当然に導き出されるわけではない。)。

しかし、逆に、このような加入者に生じる結果が法的に取り上げるだけの価値を有すると認められるものであるならば、本件商法を本件商法自体として違法であるとすることは、非常に容易になるといってよいであろう。なぜなら、この場合、本件商法は、法的に取り上げるだけの価値を有する利益を害される者を多数作り出すことを、当初から自らの商法の必須の要素としてその仕組みの中心部分に組み込んでいるものであるということができ、そのような商法を法的に是認することは、困難となっていかざるを得ないからである。

2  この点に関連して、被告らは、被告会社の会員が、新たな勧誘活動を全く行わなかった場合あるいはこれに失敗した場合であっても、ダイヤモンドの購入代金に相当するダイヤモンドが手元に残ることになるから、本件商法は会員に損害を与えない旨を主張する。

確かに、前記のとおり、本件組織においては、会員は、被告会社の保有するダイヤモンドの販売を媒介する役割を担うものであって、被告会社からダイヤモンドを仕入れてこれを再販売することはない。したがって、会員が勧誘活動を行わなくても、その手元に「在庫」が滞留することはあり得ない。さらに、被告会社が販売したダイヤモンドの価格が一般の宝石小売店の価格より高額とは認められない、少なくともその証拠はないことは先に説示したとおりであり、その意味では、被告会社の会員はダイヤモンドの購入代金に相当するダイヤモンドを手元に保持しているということもいってよい。ここまでは、被告らの主張は正当である。

3  しかし、右の意味で購入代金に相当するダイヤモンドが手元に残る限り、これを購入した会員に損害(不法行為の成否を判定する際に法的に守られる価値があるものと認められる利益の侵害)が生じることはあり得ない、とする見解を、当裁判所は採用することができない。そのわけは次のとおりである。

(一) まず、一般論として、自由社会における取引活動の自由の限界ということを考えなければならない。自由社会における取引活動の自由は、社会の活力の源であり、極力尊重されるべきものではある。しかし、それは、いうまでもないことながら、決して無制約なものであるわけではなく、常に、顧客の冷静で合理的な判断を基本的に保障したうえで、行使されなければならない。これを顧客の側から見れば、一定以上に冷静で合理的な判断を下し得る環境の下でしか商品を購入しないという意味での選択の自由が、守られるべき利益として法的考察の対象となり得るということである。そして、この立場からするときは、顧客が一定以上に冷静で合理的な判断を下し得る環境でない環境の下で商品を購入したときは、その金銭的評価をどうするかという問題は残るものの、そのこと自体を損害(法的に守られるべき利益すなわち法益の侵害)として把握する可能性が生まれてくるのである。

(二) 右に述べたことは、本件商法で取引の対象とされたダイヤモンドという商品の持つ性質に着目するときは、本件商法に極めて当てはまるといってよい。すなわち、購入の対象となる商品が、購入代金に見合うあるいはこれに比較的近い交換価値を有するとき(換金によって購入代金の全部あるいは多くの部分を容易に回収できる。)、購入者にとって必需品としての性質を有するとき(購入者はいずれにせよ当該商品と同様のものを購入しなければならない。)、あるいは、一定限度以上に低い額のものであるとき(購入者に生じる結果が無視できる程度に小さい。)などには、前記の意味で代金に相当するものが手元に残る限り(一)で述べた購入者の選択の自由の保障の要請はそれほど大きいものとはいえず、したがってまた、右自由を保障しない商法であっても取引活動の自由の範囲内にあるものとして、これを法的に放置することも許されるかもしれないが、ダイヤモンドのように、購入代金に比べて交換価値が著しく低く、嗜好の対象であって必需品としての性質を持たず、しかも、購入によって生じる影響が無視できる程度であるとするには高額すぎる商品であるときは、右保障の要請は大きいものとならざるを得ず、したがってまた、右要請にこたえない商法を法的に放置することが許されない度合いも増大していかざるを得ないからである。

(三) さらに、(二)で述べたこととの関連では、ダイヤモンドという商品が、その客観的価値が容易に把握できない性質のものであることも重要な意味を有する。ダイヤモンドは、同一の商品につき取引界において正当として許容される価格の幅が極めて広く、その意味では、むしろ、「客観的価値などというものは最初からおよそ存在しない。」という表現に非常によくなじむ商品である。ダイヤモンドがこのような性質を有するということは、具体的取引において決定された代金額が正当であるかどうかを決定するうえで、換言すれば、当該ダイヤモンドが当該代金に見合う価値を有するか否かを決定するうえで、購入者の内心(主観)の占める役割が非常に大きいということを意味する。少し誇張していえば、ダイヤモンドが右のような性質を有するものである以上、具体的取引においてその対象とされるダイヤモンドが代金に見合う価値を有するか否かは、購入者がそのように判断するか否かで決定する以外に方法がないのであり、その意味では、代金の正当性を決定する判断基準は、購入者の主観だけであり、それ以外にはあり得ないのである。そして、そうだとすると、ダイヤモンドという商品の取引においては、前記の意味での選択の自由は特別に厚く保護されなければならないことになるといってよい。

(四) 結局、ダイヤモンドを購入しようとする者には、それが被告らのいう意味での購入代金に相当するダイヤモンドである場合でも、一定以上に冷静で合理的な判断を下し得る環境でしか購入しないという法益(法によって保護するに値する利益)があるものというべきである。

三  本件商法と加入者の法益の侵害

右の観点に立って第一の三で認定した本件商法における勧誘方法を振り返ってみると、それは、全体として見た場合、顧客に対し、前記のような性質を有するダイヤモンドを購入するにふさわしい環境を保障するものではなく、少なくとも、顧客のうちの相当部分の者に対する関係では、特に、本件組織が破綻に近付いた段階での顧客に対する関係では、ダイヤモンドの購入にふさわしくない度合いの極めて大きい環境しか提供できない性質を有するものであった、ということができる。より具体的に述べると次のとおりである。

被告会社がビジネス会員を通じて勧誘した者の大半は、もともと、直ちに、あるいは、近い将来にダイヤモンドを購入する予定、意欲を持っていた顧客ではない。被告会社は、このような顧客のうちの相当部分の者、少なくともある期間についていえば約三分の一の者(前述のとおり、昭和五九年一一月では30.7パーセント、同六〇年四月では29.3パーセントである。)にビューティフル・サークルへの参加とその後のビジネス会員による勧誘という手段でダイヤモンドを販売することができた。当裁判所は、ここで、被告会社が多くのダイヤモンドを販売したこと又はしようとしたこと自体を非難しているのではない。ダイヤモンドを欲しがらない人間に無理やりこれを売り付けた又は売り付けようとしたといっているわけでもない。たいていの者にとって、特に原告らの大半がそうであるように主婦である者にとって(原告らの大半が主婦であるとの事実は、前掲<書証番号略>によって認められる。)ダイヤモンドはできることなら手に入れたい商品であろう。ただし、ほとんどの場合、それは、あくまで、「できることなら」である、ということを忘れてはならない。被告会社に支払われた代金の多くは、通常なら他に使うことが必要であるとされ、そうでなくても他に使った方がより有用であると判断されてダイヤモンドの購入資金とはならなかったはずのものである。それが、現実にはダイヤモンドの購入資金として使用されることになったのはなぜか。もちろん、多くの購入者の中にはそうでなかった者もいようが、大半の購入者にとっては、ビジネス会員達の勧誘が執拗だったからであり、本件組織の仕組みを不可欠の前提とするその成功談が、顧客に、ダイヤモンドを「安く」あるいは「ただ」で手にいれることができ、うまくすれば、「金もうけ」ができると期待させ得たからにほかならない。この場合、このような種類の期待が、顧客が勝手に抱いたものであったならば、それを法的検討の対象にすることは最初から問題にならない。また、このような種類の期待自体は、たとい他の者によって抱かされた場合であっても、法的保護に値しないというべきである。しかし、実際には実現することが不可能な、あるいは容易でないことにつき、実現可能性が一定以上に大きいように、他の者からの働きかけにより期待を持たされ、これをダイヤモンドを販売する手段として利用される、ということにならずにすむ顧客の地位は、右のような種類の期待自体とは別のものであり、法的保護に値するというべきである。

本件商法における本件組織の仕組みとこれを不可欠の前提とする勧誘方法は、この意味で、顧客のうちの相当部分の者の法的保護に値する利益を侵害するものというべきであり、侵害を受ける者の割合は、本件組織が破綻する直前の段階において最大となるのである。

四  本件商法の違法性

1 以上に述べてきたところによれば、本件商法は、本件商法自体として違法であるというべきである。本件商法は、それが前提としている本件組織の仕組み自体とそれが採用している勧誘方法とにより、購入者中の相当部分の者、特に、本件組織が破綻に近付いた段階における購入者についていえば、そのほとんど全部の者(ただし、ビジネス会員にならない者は除く。)の法益を組織的に侵害することを必然的結果としてもたらすものだからである。

また、本件商法がそれ自体違法であるとした場合、その違法性の度合いは、決して小さいものとはいえない。仮に、被害者となる一人一人の購入者の被害は比較的小さいと評価すべきものであるとしても、そのような被害を受ける者を組織的・計画的に多数生み出す行為の違法性を小さいものとすることはできないからである。のみならず、個々の被害者の受ける被害も、ダイヤモンドの有する前記性質やその価格、被害者とその周辺の人々との間の人間関係の悪化(その程度はともかく、このような人間関係の悪化は、被害者となる者のすべてに、ほとんど必然的に発生するといってよい。)などを総合的に考察すると、見方によっては、必ずしも小さいものとすることはできないということもできるのである(なお、右にいう被害者が実は「加害者になり損ねた被害者」にすぎないという点をどう考えるべきかについては、後に3で述べる。)。

2  被告らは、右の点に関連して、本件商法において現実に行われた勧誘の中に限度を超えたものがあったとしても、それは、個々の会員が行った行為であり、本件商法の内容となるわけではないから、それゆえに本件商法自体が違法になることはない(被告らはこのことを理由に責任を問われることはない)との趣旨の主張をしている。そこで、次にこれにつき考えてみる。

(一) まず、被告らは、本件組織は限度を超えた勧誘活動をその存続のために必要としていない旨を主張する。しかし、一方で、本件組織はいわば組織を拡大し続けることをその存続の前提とする組織であり、他方では、ビジネス会員達が前記のような勧誘を行うことなしに、本件組織が拡大し続けることは不可能である。前記認定のとおり、本件組織は、会員が勧誘行為をすることで、かつ、そのことのみによって拡大する仕組みなのである。そして、会員が勧誘をすることが手数料を獲得することで動機付けられており、また、勧誘に応ずる側もその多くは手数料を得る期待によってダイヤモンドを購入している以上、そしてまた、被告会社により、前記認定のような、あるいは後に述べるような、指導・教育等が会員達に行われている以上、前記のような勧誘方法は、本件組織が必然的にもたらすものというべきであり、したがってまた、本件組織の中心的内容となっているということができるのである。

(二) 次に、被告らは、被告会社が、会員達による限度を超えた勧誘を禁止するために、種々の施策を考案、実施した旨を主張する。

確かに、被告会社が被告ら主張の種々の施策を考案、実施したことは事実であり、それらが、それらがないと仮定した場合に比べれば、会員達による勧誘をより自制あるものにするために、あるいは、顧客により冷静に判断させるために、一定の役割を果たしたことも事実であろう。例えば、本件組織においては、B・D・Mに昇格する場合を除き、昇格のための所定の売上額を一定期間に達成すること(いわゆるノルマ)が要求されていないことは先に認定したとおりである、これによって、会員が勧誘に駆り立てられる度合いがそうでない場合に比べて減少したことは、被告らの主張するとおりであろう。また、被告会社が採用した「冷却期間」という制度は、前掲<書証番号略>によれば、成約率(いったん申込みした者が最終的にも契約した率)が五〇ないし六〇パーセントとなっていることから、その限度では、顧客に冷静に判断させるための役割を果たしたといってよい。

しかし、被告会社が右のような施策を考案、実施したとの事実は、前記のような勧誘方法を、本件商法が必然的にもたらすもの、すなわち、本件商法の中心的内容をなすものと判断することの妨げとはならない。

まず、この点では、基本的事項として、被告会社が採用した本件組織の仕組み自体に着目すべきである。本件組織の仕組みが、会員は、自らが又は配下の会員が新たな加入者・購入者を見出しさえすれば、相当なあるいは大きな利益を上げることができ、逆に、それ以外の方法によっては利益は上げられないというものである以上、既にこの仕組み自体の中に、会員達の相当部分の者を、自ら進んでであるにせよ、上位の会員による指導や依頼を受けてであるにせよ、何とかして新たな加入者・購入者を見出そうとして、限度を超えた勧誘に走るに至らせることに連なる危険な要素が、濃厚に含まれていることを忘れてはならない。

次に目を向けるべきは、被告会社が会員となった者に行うものとして考案した指導・教育等である。被告会社は、一方で前記のような制度を導入した代わりに、会員を勧誘に駆り立てる動機付けとして、ビジネス教室及びM・C・Cを考案してその受講を全員に義務付けた。これらの内容は前記認定のとおりある。被告会社は、ここにおいて会員達に、人生の成功者となるためには経済的豊さを持たねばならぬこと、被告会社の商法はこれを可能にすること、そのためには、被告会社が伝授する勧誘方法に習熟してこれを精一杯実践することが必要であることを教え、勧誘活動を行うための情熱と技術を熱狂的雰囲気の中で与えようとしたのである。さらに、被告会社は、ビジネス教室及びM・C・Cのほかにも、主として上位会員を対象とした指導・教育あるいは激励を、本社において、あるいは、各地のトレーナーを通じて継続的に行っており(この事実は、前掲<書証番号略>、証人井口義伸の証言並びに弁論の全趣旨を総合して認めることができる。)、ビジネス教室及びM・C・Cの前記実態を前提に証人井口義伸の証言を見れば、被告会社が、これらの指導・教育あるいは激励により、自己及び配下の会員を通じて新規購入者を見出すための情熱と技術(その中には配下の会員をどのように指導するかも含まれる。)をこれらの会員に与え続けようとしていたことを認めることができる。本件組織の前記仕組みを前提とする限り、被告会社が一方でこのような指導・教育等を会員達に行う以上、他方で前記のような施策を導入したとしても、会員中の相当部分の者が前記のような限度を超えた勧誘に走るのを止めることは不可能というべきである。

3  原告らを含めビジネス会員となった者で現実には期待していた利益を得られなかった者も、もし期待していた利益を得ていたなら、それを当然のこととして自己のものにしようとしていたであろう。しかも、その場合には、それらの者は、本件組織の仕組みの有する前記性質から、その主観においてはともかく、客観的には、期待していた利益を得られないままに終わる会員が後に多数発生することに必然的に寄与せざるを得ない。この意味で、右の者らは、「加害者になり損ねた被害者」にほかならない。そして、この観点から見るときは、このような立場に身を置き、利益が得られていたならばそれを自己のものにして黙っていたはずの者が、期待した利益が得られなかったからといって、損害の賠償を求めることが許されてよいのか、このような者に法が保護を与えるのは背理ではないか、との当然の疑問が自然に生じてくる。しかし、この疑問も、本件商法を違法とし、その主宰者との関係で右の者らに法的保護を与えることの妨げとはならない、というべきである。

まず第一に、本件組織においては、ほとんどすべての会員は、前記の意味での「加害者」か「加害者になり損ねた被害者」かのいずれかにならなければならないのに、会員になろうとする者にはそのことは知らされていない。このことをよく知らされよく認識して会員になった者に対しては右の疑問はよく当てはまるといえようが、そうではない者に対しては、この疑問は、必ずしも当てはまらないというべきである。本件組織の持つ右の問題点は、冷静になって少し考えれば誰にでもわかるはずのことであるから、この点についての認識を持たないまま会員になり「加害者になり損ねた被害者」になってしまった者は、欲に目がくらんだからだといわれても仕方がないとしても、「欲」のために誤った判断に陥りやすい傾向は、程度の違いはあっても、ほとんどの人間が共通の弱点として有するものであるから、このような人間の弱さゆえに「目のくらんだ」者に対し余りに強い非難を加えるのも正当とは思われないからである。この点では、逆に、本件組織に必然的に含まれる右の重大な問題点を明らかにしないまま顧客の勧誘をし、これに応じて会員となる者を右のような立場に置く方法を採ったという点に、本件商法の違法性を強める一つの要素を認めることもできるというべきである。

次に、「加害者になり損ねた被害者」に非難されるべき点があるということができるなら、本件商法の主宰者は、それとは比較にならない程度の強さで、非難されなければならない。本件商法は、人間の共通の弱点である欲に目がくらむ傾向を利用して、右のような非難されるべき者を組織的、体系的に大量に生み出し、しかも、それを利用して自らは多大な利益を上げようとする商法であるからである。前者に非難されるべき点があることを理由に、それよりはるかに強く非難されるべき後者に対するその請求を排斥するのが、法のあるべき姿であるとは思われない。

五  被告らの責任

1  被告会社

四で述べたとおり、本件商法はそれ自体違法なものと認められる。そしてまた、このような商法が前記のような結果をもたらすものであることは、それを考案し実施した主宰者には容易に理解できたはずのことである。したがって、これを主宰した被告会社が不法行為責任を負うことはいうまでもない。

2  被告小城

前掲<書証番号略>によれば、被告小城は、被告会社の代表者として、積極的に本件組織の拡大に努め、本件商法を行ったことが認められる。したがって、被告小城は、個人としても民法七〇九条による不法行為責任を負う。

六  損害

1  本件商法がそれ自体違法であるとされる根拠の中心は、前述のとおり、本件組織の破綻が必然的であり、この必然性を前提にしたとき、本件商法が前述した意味での被害者を必然的に多数生み出すということの中に求められる。しかし、本件商法がこのようにいったんそれ自体違法と評価され、右商法全体が本来行われてはならないものであったとされる以上は、本件商法は、破綻の直前の加入者(これらの者は、ほとんどすべて、必然的に前記の意味での被害者すなわち前記の意味での選択の自由を奪われたままダイヤモンドを購入させられた者となる。)に対する関係においてのみでなく、必ずしも必然的結果とはいえなくとも結果として前記の意味での被害を受けた者、すなわち、合理的理由(例えば、購入したダイヤモンド自体に目的があったことだけが理由で購入したときは合理的な理由があったことになろう。)でない理由でダイヤモンドを購入した者すべてに対する関係で不法行為を構成すると解するのが合理的というべきである。そして、この場合、被告会社からダイヤモンドを購入してビジネス会員となった者は、反対の結論に導く特別の事情が明らかにならない限り、右の意味で被害者となったと認定してよいというべきである。既に述べてきた本件組織の仕組みと本件商法の内容自体から見て、それらの下で被告会社からダイヤモンドを購入し、ビジネス会員となった者は、右事情が認められない限り、すべて、前記の意味での選択の自由を奪われたままダイヤモンドを購入させられた者と評価することに十分合理性があるからである。

2  右の立場に立つときは、原告らは、いずれも、本件商法の被害者であったということができる。いずれの原告についても、右の特別事情に該当すべき事実を認めることができないからである(なお、別紙損害一覧表原告番号6の原告川上澄江及び同14の原告南寛信については、<書証番号略>によれば、購入の動機としては、ダイヤモンドそのものが欲しかったとしか述べていないとの事実が認められる。しかし、いずれも、ビジネス教室に参加し、M・C・C受講料を支払い、原告川上澄江は現実にM・C・Cを受講していること等に照らすと、これらの資料も右判断の妨げとはならない。なお、原告らが、いずれも、新規購入者を見出しておらず、したがってこれによる利益も得ていないことは証拠上明らかである。)。

3  原告らが損害として主張するのは、ダイヤモンドの購入代金全額、M・C・Cの受講料、契約書を作成するために被告会社に支払った印紙代金、慰謝料及び弁護士費用である。そこで、順次検討する。

(一) ダイヤモンドの購入代金は損害となるか

原告らが、いずれも、購入したダイヤモンドを手元に保持していることは、弁論の全趣旨により明らかである(もっとも、<書証番号略>によれば、別紙損害一覧表の原告番号14の原告南寛信は、勧誘者にダイヤモンドを返還してその購入代金を回収済みであることが認められる。したがって、右原告についてはこの限りでない。)。

他方、原告らが購入代金として支払った額が、当該ダイヤモンドの代金額として、一般の宝石小売店における水準に照らして高額であったと認めることができないことは、既に述べたとおりである。そこで、問題は、右の前提の下で、原告らが自らの購入したダイヤモンドを保持していることが損害額の算定にどんな影響を及ぼすか、である。これについては、原告らがダイヤモンドを保持しつつ(正確にいえば、その所有と占有を維持しつつ)損害の賠償を求める限り、購入代金自体を損害として主張することは許されないと解すべきである。原告らが保持しているダイヤモンドが無価値な物であるなら、損害額の算定においてこれを無視することも許されようが、前記のとおりそうではない以上、購入代金を損害として扱おうとする限り、購入によって得たダイヤモンドを金銭的に評価したものをこれから差し引かざるを得ないというべきであり、しかも、ダイヤモンドの有する前記性質に照らすと、原告らの保持するダイヤモンドを金銭的に評価するための適切な基準を求めることができないからである(なお、原告石川幸恵本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、現在、購入代金全額の返還を受けるのと引換えにならその保持するダイヤモンドを返還するとの意思を有していることが認められる。しかし、原告らがこのような意思を有しているという事実自体は、右の判断に影響を及ぼすものではない。)。

しかし、右のように述べることは、原告らがダイヤモンドの購入代金として前認定の額の金員を支出したとの事実が、損害賠償額の算定において意味を持たないということにつながるわけではない。原告らの被害の核心が前記の意味で自由な意思決定をする機会を奪われたまま前記の性質を有するダイヤモンドを購入させられたことにある以上、その被害に対する金銭的評価(その中に、後述の慰謝料が含まれる。)に当たっては購入代金のいかんが意味を持つのはむしろ当然のことだからである。

(二) M・C・C受講料について

M・C・Cを受講したことは、被告会社の本件商法がもたらした結果である。これについては全額損害として認容する。

(三) 印紙代について

これは、直接的には税金である。しかし、本件商法がなければ、原告らが本件契約を締結することはなく、したがって印紙代を支払うこともなかったはずであることからすると、これも、本件商法がもたらした結果と見てよい。これについても全額損害として認容する。

(四) 慰謝料について

既に述べてきたところに照らすと、本件商法によって被害を受けた者は、反対の結論に導く特別の事情が認められない限り、賠償に値する精神的苦痛を被ったまま今日に至っているものと認定してよいというべきである。ところが、別紙損害一覧表の原告番号14の原告南寛信を除き、原告らのいずれについても、右特別の事情に該当すべき事実は認められない。原告南寛信については、前認定のとおり、勧誘者にダイヤモンドを返還してその購入代金を回収済みである、との事実があり、この事実は右特別の事情に該当するというべきである。各原告に認められる慰謝料の額は、それぞれが支出した購入代金の額等の関連資料に照らし、別紙損害一覧表認容慰謝料欄記載のとおりに定める(なお、原告らは、慰謝料としては、右に定めた額より低い額しか請求していないが、これは、ダイヤモンドの購入代金がそれ自体で損害として認められることを前提としてのことと解すべきであるから、右のように定めることの妨げとはならないというべきである。)。

(五) 弁護士費用について

前記一覧表認容弁護士費用欄記載の各金額を各原告の損害として認める。

第三  結論

以上により、原告ら各自の請求は、別紙損害一覧表認容合計欄記載の各金額及びこれに対するいずれも不法行為の日以後の日である被告会社につき昭和六〇年五月一一日、被告小城につき同年同月一二日から各支払済みまでの民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を被告ら各自に求める限度で正当であり、その余は失当である。そこで、これらの請求のうち右正当な部分を認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 神吉正則、裁判官 野々上友之は、いずれも転補のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 山下和明)

別紙 損害一覧表<省略>

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